裁量労働制を取り入れたIT業界のいびつな構造について

2019年2月22日

ちょっと前に裁量労働制が話題になっていましたね。結局数値があわないとかデータが破綻しているとかで法案として通る前に却下されましたが、ちょっと言いたいのは裁量労働制が必ずしもプラスに働くことはないってこと。

本日は裁量労働制について触れるとともにIT業界で働く身としてこれから取り組んでいかないといけない課題に触れていこうと思います。

いち早く裁量労働制を取り入れたIT業界

IT業界というのは裁量労働制をいち早く取り入れた業界でもあり、いわゆるクリエイティブな職場としても認知されてきたものと思います。
よってみなし残業みたいな給料形態をいち早く取り入れた業界でもあります。

裁量労働制は本来、労働者の裁量で勤務時間帯を決められる為、朝から晩まで働き続ける必要はないですし、時間の縛りは受けません。

いわゆる「あるタスクを完遂する上で、時間のかけ方や仕事の進め方を、自分の裁量でコントロールし、主体性を持って仕事に向き合う」ということを前提としており、「求められる成果を上げていれば、出退勤は自由」という考え方が浸透し成立していなければなりません。

本来の理想的な活用がされればIT業界ではスキル差で仕事の達成スピードに差が出てくることも多いため、「スキルがあって仕事が早く終わる人」と「仕事が遅い人」との給与面における待遇の差がなくなるというのはあるでしょうし、交通機関が乱れたときや台風で会社に行けないときに無理していくこともなく、子供ができた女性が迎えに行ったりする場合に短時間労働にするということも可能でしょう。

本来の使い方がされれば、本当に理想的な働き方ができるでしょうし、そういった働き方のほうが本来むいているのがIT業界だと思います。

しかし、実際には朝から晩まで働いている人がほとんどでしょうし、会社側や取引先の都合のほうが成立する状態となっているかと思います。裁量労働制が認められることによってみなし残業としての賃金が発生しているのですが、実際にはみなし残業以上に働いている人の方が多いというのが大方の世間の考えでしょう。

特にIT業界ではみなし残業を見越した賃金体系になっている会社が多いわりには、朝から晩まで働き続けている人が多いように感じます。

裁量労働制を利用しているIT業界


裁量労働制というのが本来の意味で使われるのであれば良い方向にいくはずなのですが、IT業界では裁量労働制という言葉をうまく利用しているといった方が正しいのが現在の姿です。

そもそもIT業界でなぜ裁量労働制が適用できると考えらえたかと言うと法律で言うところの「専門業務型裁量労働制」にあたると考えられているからに他なりません。
労基法38条の3第1項にあたるものですね。具体的な対象業務として「情報処理システムの分析・設計」というものが書かれています。そしてその内容としては

「情報処理システム」とは、情報の整理、加工、蓄積、検索等の処理を目的として、コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、通信ネットワーク、データを処理するプログラム等が構成要素として組み合わされた体系をいうものであること。
「情報処理システムの分析または設計の業務」とは(ⅰ)ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、(ⅱ)入出力設計、処理手順の設計等のアプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等、(ⅲ)システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうものであること。プログラムの設計または作成を行うプログラマーは含まれないものであること。

とあります。

ここで見るところのプログラムの設計または作成を行うプログラマーは含まれないものであること。とあるため、いわゆるコーダーというよりはシステムエンジニアと呼ばれる人たちが対象となるとなると読み取れるのですが、こういった面からもIT業界では多くの企業が取り入れたものかと思われます。

しかしここでもう一つ触れておきたい部分があります。そもそも裁量労働制を適用するためには労使協定を結ぶ必要があり、更に以下を労使協定に含めて締結する必要があるという規定が存在することです。

「対象業務を遂行する手段、時間配分の決定に関し、対象労働者に具体的な指示をしないこと」

上記の規定は裁量労働制を適用する労働者に対して時間的拘束を他社が行うことはできないということを指します。しかし実際には出退勤時間があったり、長時間労働をしなければならない状況であったりと裁量労働とはかけ離れた実態が蔓延しているというのがIT業界の現状です。

それでも裁量労働制はある一定のみなし残業により賃金をあらかじめ払うことにより、実態としてみなし残業より多い時間を働いているにも関わらず賃金はそのままということになっていたりするのです。

そもそもなぜ裁量労働制を適用したがるのか?

ではそもそもなぜ裁量労働制を適用したがる会社が多かったのか?
それは法律もさることながら、IT業界の収益構造上、そちらの方が都合がよかったからに他なりません。

そもそもみなし残業である一定の残業を見越した働き方は、ある程度の賃金を平均的に社員に与えることで突出した残業代の支払いを抑えられるということを意味します。

そしてIT業界のほとんどの会社がお客さんからA社⇒B社⇒C社と外注に外注を重ねることでシステムづくりを行っていることがほとんどです。こういった場合、お客さんから支払われたお金からだいたい20パーセントずつぐらいは間の会社が抜いていくため、C社までほとんどお金が回ってこないということになります。

しかし実際に物を作るのはC社であり、C社の売上としてはほとんどないにも関わらずモノづくりを完遂させなければなりません。そうなってくるとそもそもお客が見込んだ支払い額の半分ぐらいのお金でC社は開発をまわしていかなければならない為、社員の残業代を含んだ支払いが厳しい状況になることも多々発生するというわけです。

そもそもの金額をC社が見積もっていないわけですから、それは当然な結果ですよね?そんなのおかしいじゃないか!!と言う声が聞こえてきそうですが、実態としてこういったことがあるのがIT業界だったりします。

B社ぐらいの位置でしたらまだ何とかなりますが、C社ぐらいになってくると30パーセントぐらいは中間マージンでとられているはずなので、収益構造上かなり厳しいことになるのは明白ですよね。

そんな会社であればあるほどみなし残業を適用した裁量労働制というのは都合がよく、実態とはかけ離れているにも関わらずあらゆる企業が採用したというわけです。

そもそも裁量労働制がIT業界において当てはまるのか?

さて、ここで一つ裁量労働制という言葉の意味を考えてみようと思います。

国が定める裁量労働制という言葉の意味は以下の通りです。

専門業務型裁量労働制とは、労働基準法第38条の3に基づく制度であり、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として、法令等により定められた19業務の中から、対象となる業務を労使協定で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。

ここで「ん?」と思った人もいるのではないでしょうか?裁量労働制という言葉の意味、本質をもう一度考える必要がありそうですよね?どの部分かわかりますでしょうか?

答えは「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務」の部分です。

特に大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるのところです。

そう、大幅に労働者に裁量をゆだねる必要があるということは、労働者に仕事の進め方ややり方を決める権限がないといけないわけです。

では先ほどの例を見てみましょう。果たしてC社の社員として働く労働者に権限はありますでしょうか?

こたえはほぼほぼNoとなると思います。

実態としてC社の社員はB社からも指示を受けるでしょうし、C社の社長や上司からも指示を受けることがほとんどでしょう。そうなった場合、本人の裁量もへったくれもありませんよね。

上記のようなことからIT業界で裁量労働制が当てはまるとしたらA社の社員である程度の権限を持った人ぐらいだと思います。もしくは裁量労働制をしっかりと理解していて法律を盾にとることができる人ですね。

そのような人達のみが唯一裁量労働制を正常に理解し使うことができると思います。そのほかの人はほぼほぼ当てはまりませんし、無理矢理に権利を主張しても会社からパワハラを受けてしまうことでしょう。

裁量労働制が正常に機能するには?

IT業界において裁量労働制が正常に機能するのはまだまだ先のことだと思います。

そして正常に機能するには、現在のいびつなIT業界の仕事の構造(孫請けまで発注して間の会社がマージンを抜くような構造)を変えないといつまでたっても変わらないでしょう。

また裁量労働という言葉を正式な意味で理解している会社が増えないといつまでたっても現状は変わりません。

裁量労働という言葉の意味と適用することで発生する権利が正常に機能する業界に早くなってほしいものです。

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